
内部不正を“未然に防ぐ”ために必要なログ活用術 ~事例から学ぶ、組織が取るべき3つの仕組み〜
以前、『セキュリティインシデントとは?その概要と対策・対応方法を解説』にて簡単にではありますが、内部不正について簡単に触れましたが、今回は内部不正について深堀していきたいと思います。
内部不正は外部からの攻撃と異なり「正規の権限を持つ人物」が関与するため、行動が日常業務に紛れやすく、発見が難しいという特徴があります。
近年はクラウド利用の拡大、リモートワークの定着、人材の流動化などにより、機密情報が社内外に分散し、内部不正が起きやすい環境が広がっていることもあって被害が後を絶ちません。
一方で、内部不正が行われる際には必ず ログとしてユーザー行動の痕跡が残るため、適切なログ収集と継続的な監視体制があれば、内部不正の兆候を早期に捉え、重大な情報漏洩を未然に防ぐことが可能です。
本記事では、内部不正のリスクと、その対策基盤となる「ログ活用の仕組み」について、実際の事例をもとに、内部不正をどのように発見し、防止につなげるのか を分かりやすく紹介します。
なぜ内部不正対策が必要なのか?

内部不正は、企業にとって最も発見が難しく被害が深刻化しやすい経営リスクのひとつです。
不正アクセスやサイバー攻撃などの外部からの攻撃とは異なり、内部不正は 正規の権限を持つ人物が日常業務に紛れて行うため、不正行為が表面化しにくく、気付いたときには既に情報が流出しているケースも少なくありません。
また、近年は以下の要因によって内部不正のリスクがさらに高まっています。
- クラウド利用やテレワーク拡大による情報の分散
- 個人デバイスや自宅回線を経由したアクセス
- 人材流動化に伴う退職時の情報持ち出しリスクの増大
- 退職時に本来存在する持ち出しリスクが、人材の流動化によってその機会自体が増えたことで一層高まっている。
これらの環境変化により、組織における情報持ち出しのリスクは従来より一層高まっています。
内部不正が企業に及ぼす重大なリスクとは
内部不正が発生し、情報漏洩などのセキュリティインシデントが発生した場合、企業が直面するリスクは
多岐にわたります。
● 信頼失墜とブランド価値の毀損
内部不正による情報漏洩は企業の信用を瞬時に失墜させ、取引停止や契約見直しのリスクを招きます。
● 業績への影響
一度「情報漏洩を起こした企業」というイメージが付くと回復に時間がかかり、売上減少に直結します。
● 経営リスクの増大
補償対応、訴訟リスク、株価下落など、経営に直結するリスクが発生します。
● 組織運営への長期的な悪影響
内部不正の発生は組織の健全性に疑念を生み、人材流出や士気低下などの副次的な影響も起こりえます。
こうした影響を考慮した場合、内部不正対策は「セキュリティ強化」という枠を超えて、
企業の持続的な成長や信頼維持のために欠かせない経営課題 だと言えます。
内部不正を見逃さないための第一歩:ログを残すこと

内部不正には多様なリスクが存在しますが、ユーザーの操作ログを活用することで内部不正は対策できます。
内部不正行為は、必ず何かしらの形でログとして痕跡が残るため、適切なログ収集と継続的な解析体制を
整えることで、重大な被害が発生する前に兆候を察知し、未然に防ぐことができます。
ログに記録される痕跡は、内部不正を調査するうえで不可欠な以下の4つの観点に整理できます。
これらのいずれかが欠けていると、誰が、いつ、どのような操作を行ったのかといった重要な情報を把握できず、
充分な調査や原因の特定が困難になります。
① 誰が
ユーザーIDやアカウント情報から、操作を行った人物を特定します。
② いつ
操作が実行された日時や期間を明確にします。
③ どこで
端末情報、接続元ネットワーク、物理的なアクセス場所など、操作が行われた環境を把握します。
④ 何をしたのか
ファイルの閲覧・ダウンロード・削除、アプリケーション操作など、具体的な行動内容を確認します。
操作ログは時系列に沿って継続的に記録され、改ざんが極めて困難であることから、
内部不正を裏付ける客観的かつ唯一の証拠となります。
ログ解析の重要性:集めるだけでは内部不正は防げない
ログは収集して保管するだけでは内部不正の対策にはつながりません。
内部不正を発見するためには、「普段とは異なる行動」をログから捉えることが重要です。
例えば、次のような行動は内部不正の兆候である可能性があります。
- 深夜・休日に行われたアクセス
- 通常扱わない機密データへの突発的なアクセス
- ファイル閲覧・コピー件数の異常な増加
- 不審な端末やネットワークからのログイン
- 私的メールサービスや外部ストレージとの通信
しかし、実際のログは1台あたり数GB/月 に達することもあり、上記のような内部不正の兆候は
膨大なログの中に埋もれてしまいがちです。
さらに、目視で確認するには限界があるため、結果としてログを保管しているだけでは兆候を見逃してしまいます。
そこで必要となるのが保管しているログを「監視する仕組み」です。
具体的には、次のような取り組みが不可欠です。
- 定期的、網羅的なログ解析
- 通常行動(ベースライン)との比較による変化の検出
- 異常パターンを早期に把握し、迅速に対応する体制の構築
このような監視体制を整えることで、内部不正の兆候をいち早く可視化し、重大な被害を未然に防ぐことができます。
内部不正を未然に防ぐためのログ活用の仕組み
では、ログを効果的に活用し、内部不正を未然に防ぐために必要となる仕組みを整理します。
ログ活用の仕組みは、大きく以下3つの柱に分類されます。
項目 | 内容 |
|---|---|
IT資産管理ツール | ユーザーの行動や操作履歴を自動で記録し、 |
定期的なログ解析と | 月次や週次などの周期でログを解析し、不自然な行動や異常パターンを |
アクセス権限管理と | 最小権限の原則に基づき必要最小限の権限のみを付与し、機密データへの |
これら3つの仕組みを組み合わせることで、ログは単なる「記録」ではなく、内部不正の兆候を早期に捉えるための強力な防御手段へと変わります。
適切な収集・解析・管理体制を整備することで、組織は内部不正に強い堅牢なセキュリティ基盤を構築できます。
●内部不正の抑止効果にも期待
ログを適切に収集・解析し、権限管理や監査体制を整えることで、内部不正の兆候を事前に察知できるだけでなく、抑止効果も期待できます。
社員や関係者は、自身の行動が記録・監視されていることを認識するため、安易な不正行為を控える心理的な抑止力が働きます。
その結果、組織全体のセキュリティ意識が高まり、内部不正が起きにくい環境を作り出すことが期待できます。
事例解説:定期ログ解析による未然防止
事例 1:自宅回線を利用した機密ファイルへの不正アクセス
概要
ある従業員が、自宅のネットワーク回線を利用して社内の機密ファイルにアクセスし、閲覧やダウンロードを行っていました。
該当ファイルは本来、関係者以外は閲覧できない社外秘のものでしたが、アクセス権限が適切に設定されておらず、対象の従業員はこれを知り、社内システムの記録に痕跡が残らないようにするために、自宅回線からアクセスを行ったと考えられます。
発見のポイント
月次のログ解析により、通常業務ではアクセスしないファイルの閲覧が検出されました。
操作ログを詳細に確認したところ、アクセス元が自宅回線であることや、特定の重要資料にのみ
接触していることが判明しました。
この早期発見により、情報漏洩が発生する前に是正措置を実施することができました。
対策
- 閲覧権限の見直しと強化
- 不要なアクセス権限の棚卸し
- 社内システムの見直しと監視強化
これにより、同様の不正行為を未然に防ぐ環境を整えることができました。
事例 2:フリーメールアドレスを悪用した情報持ち出し
概要
従業員が社内の機密資料をダウンロードし、私的に使用しているフリーメールアドレスに添付して送信する事例が発生しました。
従来の社内システムでは気づきにくい行為でしたが、定期的に実施していたログ解析により早期に発見することができました。
発見のポイント
定期的なログ解析の結果、特定の従業員において通常よりも異常に多いダウンロード量が確認されました。
操作履歴を追跡したところ、該当のファイルがフリーメールアドレスに送信されていることが判明しました。
さらに該当者への聴取を行ったところ、転職先への情報持ち出しを計画していたことが明らかになり、情報漏洩が発生する前に内部不正行為を特定することができました。
対策
- 機密データの閲覧・送信ルールの強化
- ログ監視範囲の拡張と異常行動のアラート設定
- 情報持ち出し防止の啓発や教育の徹底
これにより、同様の手口による情報漏洩のリスクを減らすことができました。
まとめ
内部不正の対策は、単にシステムにログを残すだけでは十分ではありません。
重要なのは、収集したログを定期的に解析し、異常な行動やパターンを早期に把握する体制を整えることです。
そのためには、組織内でのレビュー体制を設けたり、必要に応じて専門業者の知見やサービスを活用することも有効です。
ログは単なる記録から未然防止のための有効な情報源へと変わり、内部不正リスクの抑止と企業の信頼性向上につながります。

