
ネットワークフォレンジック入門:サイバー攻撃の証拠を追跡せよ!
ネットワークフォレンジックは、サイバー攻撃や不正行為の証拠を追跡・調査するための重要な手段です。
本記事では、ネットワークフォレンジックの基本概念、主要な手法、代表的なツール、そして具体的な活用事例について解説します。
仕組みや事例を知っておくだけでも、いざというときに落ち着いて対応できる力につながります。
ネットワークフォレンジックとは?
ネットワークフォレンジックとは、ネットワーク上で発生する通信履歴やイベントを記録・保存し、分析するプロセスを指します。
主に、サイバー攻撃や内部不正といったセキュリティインシデントやデジタル犯罪の調査において、重要な証拠を収集・分析するために用いられます。セキュリティインシデントの対応については、こちら『インシデント対応とは?効果的なプロセスと成功のためのポイント』を参照してください。
ネットワークフォレンジックの主な目的は、次のとおりです。
不正アクセスの確認:通信履歴をたどってサイバー攻撃の手口や侵入経路を特定します。
証拠の保存:法的手続きや内部調査のために、通信の痕跡を正確に記録・保全します。
インシデント対応や予防の支援:異常な通信を検知・分析し、被害の拡大を防ぐための迅速な対応や被害予防に役立てます。
ネットワークフォレンジックを活用すると、「どこから攻撃が始まったのか」「どんな経路で被害につながったのか」といった全体像をつかむことができます。
これによって原因を正しく理解し、再発防止につなげられるほか、早期に異常を見つけて被害の拡大を防ぐことも可能です。
さらに、通信の記録をきちんと残しておけば、フォレンジックによって得られた情報は法的証拠となり、裁判でも有効な情報として扱われます。
ただし、解析を実施するためには、平時から必要なログを収集している必要があります。
また、収集したログを集約できるような仕組みを持っていると、効率的に解析を実施することができるということを覚えておきましょう。
ここからはネットワークフォレンジックを行うために必要な仕組みや体制、具体的な手法やツール、実際の活用例について詳しく見ていきましょう。
ネットワークフォレンジックの手法
ネットワークフォレンジックを実施する際は、複数の手法を組み合わせて証拠を収集・分析すると効果的です。ここでは代表的な手法をご紹介します。
1. パケットキャプチャ
ネットワーク上を流れるデータパケットをリアルタイムまたは事後的に捕捉・保存し、詳細に分析します。
使用ツール例:Wireshark、tcpdump
2. ログ収集・分析
ファイアウォールやプロキシ、ルーター、IDS/IPSなどのネットワーク機器から出力されるログを収集・分析し、不審なアクセスや異常通信の痕跡を探します。
また、IT資産管理ツールなどが出力するログを分析することで、クライアント端末の動きを追跡し、ネットワーク側だけでなくクライアント視点からも調査を行うことが可能です。
使用ツール例:Syslog、SIEM(Security Information and Event Management)など
※SIEMとは、複数製品のログを集約・統合分析することで、セキュリティインシデントの兆候をはじめ様々なアラートを検出する仕組みです。
3. トラフィック分析
ネットワークトラフィック全体の流れや通信量のパターンを可視化・解析し、通常と異なる挙動や不審な通信を検出します。
使用ツール例:Zeek(旧名:Bro)、Suricata など
これらの手法を組み合わせることで、より正確かつ網羅的なフォレンジック調査が可能になります。
また、昨今はクラウド化も進んでおり、SASE製品が出力するログや、クラウド基盤で利用しているサービスのログもネットワークフォレンジックの対象として重要になっています。
クラウド・オンプレミスのハイブリッド環境では通信経路が複雑化し、オンプレミスのネットワーク機器だけでは全体像を把握できないことも多いため、クラウドサービス側のログを組み合わせることで、より包括的な分析が可能になります。
ネットワークフォレンジックに役立つツール
ネットワークフォレンジックでよく用いられるツールの一部を紹介します。用途に応じて複数を組み合わせて使用することで、調査の精度を高めることができます。
■ パケットキャプチャ系
Wireshark
データパケットをGUIで可視化し、詳細な分析ができる定番ツール。初心者にも扱いやすいのが特徴です。
tcpdump
コマンドラインベースの軽量パケットキャプチャツールで、スクリプト処理との相性が良好です。
■ トラフィック解析・セッション分析系
NetworkMiner
HTTP、FTP、SMTPなどのプロトコルを使用した通信セッションを復元・再現し、通信相手やファイルの抽出が可能な可視化ツールです。
Zeek(旧Bro)
ネットワークトラフィックを記録できるほか、スクリプトによる柔軟な解析が可能です。
■ IDS・ログ統合系
Suricata
高速なパケット解析、IDS/IPS機能を備え、ログの出力も充実しています。
Snort
長年利用されているIDS/IPSの代表格で、シグネチャベースの検知に強みがあります。
■ SIEM(Security Information and Event Management)系
- Splunk SIEM機能を有する統合ログ管理プラットフォームで、世界的にシェアも高く、ログの収集・検索・可視化に優れています。
- Microsoft Sentinel クラウド環境に最適化されたSIEMで、Azureだけでなくマルチクラウドやオンプレ環境も統合的に監視できます。
- Alog(網屋) 日本国内で広く利用されているSIEM製品で、ログの収集・分析・可視化に優れ、国内のセキュリティ要件に合わせた運用が可能です。
- Elasticsearch(Elastic社) ログの検索・集約・可視化に強みを持つオープンソース製品で、ダッシュボード化や大量データの分析に適しています。
ネットワークフォレンジックの活用事例
事例①:外部からの不正アクセスによる情報漏えい
某企業にて、機密データが外部に漏洩した可能性が浮上し、ネットワークフォレンジックを実施したところ、業務時間外に外部サーバーへ大量のデータが転送されていたことが判明しました。
パケットキャプチャと通信ログの突合により、攻撃元IPアドレスが特定され、迅速な対策と法的対応につながりました。
事例②:内部不正によるデータ持ち出しの発見
某金融機関にて、ネットワークトラフィックを定期的に監視していたところ、不審な外部接続が平常時と異なる時間帯に発生しました。
Zeekのログを分析した結果、社員が業務端末から個人クラウドストレージにデータをアップロードしていたことが判明し、社内調査のきっかけとなりました。
ネットワークフォレンジック実施時の注意点
ネットワークフォレンジックは強力な手法である一方、実施にあたっては以下の点に注意する必要があります。
法令・社内規定の遵守
通信データには個人情報が含まれる可能性があるため、プライバシー保護や法律の遵守が不可欠です。証拠の保全
収集した証拠はタイムスタンプやハッシュ値を付与して保全し、改ざんのない状態を維持することが重要です。法的証拠としての有効性が問われる場面もあります。専門知識の確保
分析には高度な知識が必要なため、セキュリティ担当者の育成や、外部の専門家との連携が求められます。
まとめ
この記事では、ネットワークフォレンジックの基本概念から、代表的な手法・ツール、実際の活用事例、注意点までを網羅的に紹介しました。
ネットワークフォレンジックは、サイバー攻撃の証拠をつかみ、被害を最小限に抑えるための強力な武器です。自社のセキュリティ戦略の一環として、ネットワークフォレンジックの導入・運用をぜひご検討ください。