続・IPアドレスの基礎知識:IPv6の現状
IPv4の続編に続き、今回はIPv6です。また、IPアドレスの基礎を知りたい方は「IPアドレスの基礎知識:IPv4とIPv6の違いとは? 」もご参照ください。
さて、みなさんはIPv6は知らず知らずのうちに使っているケースが多いのですが、実感されていますか?
今回はIPv6の歴史を軽く振り返り、IPv4と同じように種類、自動割り当ての仕組み、セキュリティなどをおさらいした後に、IPv6がどの程度われわれの生活に浸透しているのか、見えないところで実は使われているIPv6、といったところを書いていきたいと思います。
IPv6の歴史
IPv6(Internet Protocol version 6)は、従来のIPv4の後継として開発されました。IPv4は約43億のユニークなIPアドレスを提供できますが、インターネットの普及に伴い、アドレスが枯渇する問題が生じました。このため、1990年代にIPv6が提案され、2000年には正式な標準として発表されました。IPv6の最大の特長は、128ビットのアドレス空間を持つことで、ほぼ無限に近い数のIPアドレスを提供できる点です。この技術の導入により、IoT(Internet of Things)の普及も加速し、さまざまなデバイスがインターネットに接続可能となりました。
せっかくなので、IPv6の歴史をもう少し詳しく探ってみましょう。
1990年代初頭:IPv4の限界が問題視され始める
IPv4のアドレス空間は32ビット(2^32=約43億個)ですが、当初は十分と考えられていました。しかし1990年代にインターネットの商用利用が始まり、急速に利用が拡大する中でIPアドレスが枯渇するという懸念が徐々に高まります。
1994年:次世代IPアドレスの設計検討
IETF(Internet Engineering Task Force)が、IPv4の後継となる新しいインターネットプロトコルを検討するためにIP Next Generation(IPng)ワーキンググループが設立されます。ここで複数の提案が提出される中、SIPP(Simple Internet Protocol Plus)が有力案になり、これをベースにしてIPv6の仕様策定作業が進目られます。
1995年:IPv6の仕様確定
IPv6の最初の仕様がRFC1883として正式に公開されました。ここでは、アドレス長が128ビット(2^128)となり、IPv4と比較すると広大なアドレス空間が利用できるようになりました。またヘッダ構造の見直し、IPsecを標準装備、アドレス自動設定(SLAAC)の実装など、多くの新機能が導入されます。
1998年:IPv6の正式な標準化
IPv6がRFC2460として改訂されます。この頃から各国で試験導入の開始が増え始めました。日本ではWIDEプロジェクトなどがIPv6実証実験を開始しています。IPv6のRFCは2017年にRFC8200として再度改定され、これが最新となっています。
2000年代:緩やかな導入と啓発活動
主要OSがIPv6に対応します(Windows XP、Linux、MacOSなど)。しかし、IPv4のNAT(アドレス変換)の普及によってIPv4が延命される状態となり、IPv6の普及進みませんでした。企業では急いでIPv6を導入する必要性がなく、最近までこの傾向は続きます。
2011年:World IPv6 Day (世界IPv6デー)
IPv6の普及を目的として、2011年6月8日にGoogle、Facebook、Yahoo! などの大手企業が24時間だけIPv6を本格稼働させる実験を行い、技術的に問題ないことを確認しました。こういったイベントによってIPv6の普及は徐々にではありますが広がっていきます。
2012年:World IPv6 Launch (世界IPv6ローンチ)
さらに2012年6月6日、World IPv6 Launchと題してIPv6イベントが行われます。この頃から主要なネット企業・ISP・機器ベンダーがIPv6の本格運用を開始し、これ以降はIPv6の導入が徐々に進んでいきます。
2020年代〜現在:IPv6普及が加速
Googleの統計では、2025年現在の世界のインターネットトラフィックの40〜50%以上がIPv6**を利用している、としています。特に初期の普及が早かったと思われるインド、ベルギー、アメリカ、日本などはIPv6普及率が高くなっています。また、日本に特徴的な普及要因として、モバイル通信キャリア(日本のNTTドコモ、au、SoftBankなど)が、総務省やIPv6普及・高度化推進協議会(v6pc)などの後押しもありIPv6ネイティブ対応を進めたことで普及が加速しました(2017年頃〜)。
IPv6の種類
Pv6には、いくつかの種類があります。ここではその一部を紹介します。
ユニキャストアドレス (Unicast Address)
1つのインタフェース(端末)を一意に識別するためのアドレスで、IPv6で1対1の通信を行う場合に使用するもっとも一般的なアドレスです。ユニキャストアドレスには以下の3つがあります。
グローバルユニキャストアドレス Global Unicast Address)
インターネット上で一意に割り当てられるアドレスで、IPv6での「グローバルIPアドレス」です。
プレフィックス(アドレス範囲)は 2000::/3
です。
リンクローカルアドレス (Link-local Address)
同一リンク(ネットワークセグメント)内で使用可能なアドレスです。リンクローカルアドレスはルータを越えて通信できません(隣接ノードとの通信のみ)。通常は自動生成され、インターフェースに設定されます。
プレフィックスは fe80::/10
です。
ユニークローカルアドレス (Unique-local Address)
IPv4のプライベートアドレス(192.168.x.xなど)に相当するアドレスです。内部ネットワークで使用され、インターネットにはルーティングされません。基本的には組織内で自由に使えますが、割り当てが重複しないようにするために、インターフェースのMACアドレスから生成する方法があります。
プレフィックスは fc00::/7
ですが、fd00::/8
がよく使われます(前半は未定義となっています)。
マルチキャストアドレス (Multicast Address)
IPv4のマルチキャストアドレスと同様に、特定のグループに属する複数のノードに一斉に送る(1対多)通信で使用されます。IPv6では、マルチキャストアドレスはIPv6のさまざまな機能と密接に連携しており、さまざまな用途で使用されます。また、IPv6にはブロードキャストが定義されていないため、ブロードキャストアドレスの代替としての存在意義もあります。
プレフィックスは ff00::/8
です。
IPv6での自動割り当て
IPv6では、アドレスの自動割り当てを行う機能が標準で実装されています。これには主に2つの方式があります。
ステートレスアドレス自動設定 (SLAAC)
デバイスがネットワークに接続した際に、自動的に自身のIPアドレスを生成する方式です。ネットワークからのプレフィックス情報を使ってアドレスを作成し、手動設定を不要にします。
DHCPv6
ネットワーク管理者が各デバイスにIPアドレスを割り当てるためのプロトコルです。これにより、より細かな管理や制御が可能となります。
IPv6とセキュリティ
IPv6は、ネットワークセキュリティの向上にも寄与しています。IPv6では、IPsecというセキュアな通信プロトコルが標準で組み込まれており、安全なデータ通信を実現しています。IPsecは、データの暗号化や認証を行うことができ、インターネット上での情報漏洩や中間者攻撃を防ぐ役割を果たします。
ただし、IPv6のセキュリティ対策においては、管理者が設定を適切に行うことが求められます。デフォルトではIPsecが必須というわけではないため、意図的にセキュリティ設定を行わないと、リスクが残ることもあります。したがって、IPv6導入時には、セキュリティポリシーを検討することが重要です。
身の回りのIPv6
普段あまり意識しないものの、私たちの生活の中にはすでにIPv6が使われている機器やサービスが数多く存在します。以下に具体的な例とそれがIPv6をどう使っているかを紹介します。
家庭用インターネット回線
最近のプロバイダはIPv6 IPoEで接続しているケースが多く、IPv6での通信が基本になっています
無線LANルーター
最近のWi-FiルーターはIPv6パススルーやIPv6ルーティングに対応しています。また、一部のルーターでは、設定画面に「IPv6ステータス」や「RA(ルータ広告)機能」などがあり、自動で家庭内機器にIPv6アドレスを配布していますので、知らず知らずのうちにIPv6を使っているかもしれません。
スマートフォン
IPv6の歴史でも書きましたが、モバイル通信(4G・5G)では日本の大手キャリアのすべてがIPv6ネイティブ通信を採用しています。
実は使ってる?IPv6の裏側エピソード
自宅のAmazon Echoが「Alexa、天気を教えて」と言うと、裏ではIPv6でAmazonサーバと通信していたりします。
- Netflixが夜でもスムーズに再生されるのは、IPv6経由で最寄りのCDNサーバに接続されているからかもしれません。
- iPhoneはWi-Fi接続時にIPv6を優先使用しているので、SafariでYouTubeを開くとIPv6経由の通信が行われています。
まとめ
IPv6の歴史、アドレスの種類、自動割り当ての仕組み、セキュリティに関する特長、また身の回りにあるIPv6の実例について解説しました。
IPv6は、インターネットの未来を支える重要な技術であるため、理解を深めることが必要です。この記事で得た知識を元に、今後のインターネット環境の変化に備えてみてはいかがでしょうか。IPv6の活用が進んでいく中、自分自身のネットワークを見直す良い機会になるかもしれません。