続・IPアドレスの基礎知識:IPv4について
このブログは少し前に書いたIPアドレスの基礎知識:IPv4とIPv6の違いとは?の続編です。IPv4とIPv6についてごく基本的なことを比較する形で書きましたが、今回はIPv4について、いまさらではありますが基本をおさらいしたいと思います。次回はIPv6を予定しています。
IPv4の歴史
IPv4(Internet Protocol version 4)は、インターネットプロトコルのバージョン4として、1981年に策定されました。それ以前のIPv0〜IPv3までのバージョンは1977〜1979年頃に存在していましたが普及することはなかったようです。
初期のインターネットは主に研究機関や大学で使用されていましたが、次第に商業利用が増え、インターネットの普及とともにIPv4の重要性が増していきました。IPv4のアドレス空間は32ビットで構成され、約42億のアドレスを生成することができるため、普及段階では十分なアドレス数と思われていました。しかし、インターネット利用の急速な普及により、IPv4のアドレスが不足する問題が顕在化してきました。IPv4アドレスが不足し枯渇する問題については後半で触れます。
IPv4の種類
IPv4アドレスにはいくつかの種類が存在します。ここでは代表的なものを紹介します。
- パブリックIPアドレス: インターネット上で一意の識別子として利用されるアドレスであり、グローバルにルーティング可能です。一般的にISP(インターネット・サービス・プロバイダー)が提供します。
-
プライベートIPアドレス: 内部ネットワークで使用されるアドレスで、インターネット上ではルーティングされません(インターネット上では通信できない)。企業や家庭の内部ネットワークで使用され、インターネット経由でのやりとりはNAT (ネットワークアドレス変換) を使用してアクセスします。アドレス範囲は以下です。
PREFIX |
アドレス範囲 |
---|---|
10.0.0.0/8 |
10.0.0.0 〜 10.255.255.255 |
172.16.0.0/12 |
172.16.0.0 〜 172.31.255.255 |
192.168.0.0/16 |
192.168.0.0 〜 192.168.255.255 |
- リンクローカルアドレス: 主に同一ネットワーク内での通信に使用されるアドレスで、 169.254.0.0/16 の範囲です。DHCPサーバーが利用できない場合、APIPAによって自動的に割り当てられます。
- マルチキャストアドレス: マルチキャストでの宛先として使用されるアドレスで、224.0.0/4 の範囲です。動画配信やネットワーク管理で使用されます。
上記以外にも、テスト用やドキュメント記述用など特別な用途に使用するアドレスが RFC3330 で規定されています(以下)。
PREFIX |
アドレス範囲 |
用途 |
192.0.2.0/24 |
192.0.2.0 〜 192.0.2.255 |
ドキュメント例示用 |
192.88.99.0/24 |
192.88.99.0 〜 192.88.99.255 |
6to4 Anycast用に予約 |
198.18.0.0/15 |
198.18.0.0 〜 198.19.255.255 |
テスト用 |
198.51.100.0/24 |
198.51.100.0 〜 198.51.100.255 |
ドキュメント例示用 |
203.0.113.0/24 |
203.0.113.0 〜 203.0.113.255 |
ドキュメント例示用 |
224.0.0.0/4 |
224.0.0.0 〜 239.255.255.255 |
IPマルチキャストで使用 |
240.0.0.0/4 |
240.0.0.0 〜 255.255.255.254 |
予約 |
IPv4での自動割り当て
IPv4では、ネットワーク設定を簡単に行うために自動割り当てが広く使われており、DHCP (Dynamic Host Configuration Protocol) を使用します。DHCPサーバーは、ネットワーク内の各デバイスに対して一時的なIPアドレスを割り当てます。これにより、手動でのIPアドレスの設定作業が不要になり、ネットワーク管理が効率化されます。また、DHCPはIPアドレスだけでなく、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバーの情報なども一括して提供できるため、デバイスの接続がスムーズになります。DHCPによりIPアドレスの競合を防ぎ、管理者がアドレスの使用状況をある程度把握できるというメリットもあります。
IPv4とセキュリティ
IPv4でのセキュリティは、IPSecとして仕様が規定されています。IPSecを使用することにより、通信の暗号化、改ざんの検知などがあります。
IPv4のためのIPSecは、1990年代からIETFなどで仕様が検討されてきましたが、既に出来上がっているIPv4へ追加する形での実装となったため、実用的な普及まで時間がかかりました。また、仕様が複雑になってしまったところがあり、一時期は相互接続性の検証が盛んに行われました。現在は安定した接続が可能な製品がほとんどです。
IPSec利用の一例として、VPN (Virtual Private Network) が挙げられます。VPNは、インターネット上で暗号化されたトンネルを構築し、通信を保護します。企業での拠点間通信の保護や、テレワークや外出時などオフィスから離れたところで仕事をする時に使用し、安全にファイルサーバーなどへアクセスできるようになります。
IPv4の枯渇について
IPv4の最も大きな問題は、そのアドレス空間の枯渇です。1990年代後半から2000年代初頭にかけてインターネットが急速に普及したため、IPv4アドレスの利用が急激に増加しました。これにより、2000年代の初頭にはIPv4のアドレスがほぼ枯渇したと言われています。
IPv4の割り当ては、以下のように地域ごとに分かれて管理されています。
2011年2月3日にIANAで新規に割り当てるIPv4アドレスの在庫がなくなり、日本が含まれるAPNICでは2011年4月15日に通常割り当て分の在庫がなくなりました。以降は返却されたIPv4アドレスからの再割り当てなどが行われていますが、割り当ての最小単位を小さくするなど制限されています。
IPv4アドレスの枯渇は、特に新興市場や国でのインターネット接続の増加に伴って深刻化しました。既にIPv6は普及が始まっていましたが、このIPv4枯渇問題に対処するためにIPv6の普及が進んだ背景もあると考えられます。また、既にIPv4を使用している多くの企業では、IPv6へ移行することなく引き続きIPv4を使用しています。これによりIPv4の寿命は少しですが延びています。
IPv4と今後
IPv4は依然として多くのネットワークで使用されていますが、今後はIPv4の新規割り当ては極めて限られた数のみになり、IPアドレスの割り当てはIPv6へ移行していくと考えられます。IPv6は128ビットのアドレスを持ち大きなのアドレス空間を提供します。これにより、IoT (Internet of Things) などさまざまなデバイスの接続が容易になります。IPv4とIPv6の両方が共存する「デュアルスタック」が広がっていますので、みなさんの手元でも知らず知らずのうちにIPv6を使っていると思います。
まとめ
この記事では、IPv4の歴史からその種類、自動割り当て、セキュリティ、枯渇問題、さらには今後の展望について振り返って解説しました。IPv4はインターネットの基盤となる重要な要素であり、その理解はネットワークを運営する上で欠かせません。特に、IPv4の新規割り当てが制限される中で、今後のネットワーク設計においてはIPv6の理解も重要です。次回はIPv6について解説する予定ですので、ぜひ、この記事を参考に、より深くIPアドレスとネットワークの世界を探ってみてください。