
ハッカーキャンプWHY2025参加レポート
目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.WHY2025
- 3.ハッカーキャンプとは?
- 4.会場での出来事
- 4.1.カンファレンス
- 4.2.ワークショップ、Village
- 4.3.バッジ騒動
- 5.次回
はじめに
セキュリティエンジニアの夏の定番といえば、ラスベガスに集結してBlackHatやDEF CONといったカンファレンスに参加し交流を深めることですが、コロナ禍以降、その機会も少なくなってしまいました。 ラスベガスのイベントは今年も8月初旬に開催され、弊社からも参加しています。詳細は後日公開予定の記事などを参考にしてみてください。
さて、筆者はちょうど同じタイミングで開催されたオランダのハッカーキャンプ「WHY2025」に参加してきましたので、その様子を報告します。
WHY2025
日程:2025年8月8日~12日(5日間)
場所:オランダ・Geestmerambacht(アムステルダムから北に約42km、アルクマール近郊)
参加者数:4224名参加
名称:WHY2025 - What Hackers Yearn
今回参加したオランダのハッカーキャンプ「WHY2025」は、2025年8月8日から12日の5日間、オランダのGeestmerambachtで開催されました。この場所はアムステルダム郊外にある、様々なイベントに対応した広大なレクリエーションエリアです。
このオランダのキャンプは4年に1度開催されます。毎回名前が変わるのが特徴で、その時々のハッカーコミュニティの関心事や時代を象徴するようなテーマが選ばれるようです。今年は「What Hackers Yearn (for) = ハッカーが渇望するもの」でした。
過去の記録はWikiにまとめられていますが、最初の開催は1989年の「Galactic Hacker Party (GHP)」で、今回が記念すべき10回目の開催となります。
History of Dutch Hacker Camps - WHY2025 wiki
会場内で、夜になると火が吹いたり、レーザー光線が出たり
朝の風景、夜と比べて朝は大変静か
ハッカーキャンプとは?
さらっと書き始めてしまいましたが、「ハッカーキャンプ」とは一体何なのでしょうか? ラスベガスで開催される一連のカンファレンスも「Hacker Summer Camp」と称されるため少し紛らわしいのですが、ヨーロッパで開催されるハッカーキャンプは、Wikipediaによると以下のように定義されています。
https://en.wikipedia.org/wiki/Category:Hacker_camps
Hacker camps are a type of hosted outside in tents. Typically one would expect high speed internet, site side wifi coverage, a DECT network, conference talks and music. They are typically volunteer organised, not for profit, and target hackers, geeks, engineers and scientists.
訳
ハッカーキャンプは、屋外のテントで開催されるイベントです。通常、高速インターネット、会場内のWi-Fi、DECTネットワーク(デジタルコードレス電話)、カンファレンスの講演や音楽などが提供されます。通常はボランティアによって運営され、営利目的ではなく、ハッカー、オタク、エンジニア、科学者を対象としています。
会場では電気や水道、売店、24時間営業のバー(飲み物や軽食が購入可能)なども整備され、さながら一つの街が形成されます。そして、そのほとんどがボランティア主導で構築・運営されているのです。 これらの根底にあるのは、「ハッカーによる、ハッカーのための」という非営利・ボランティア主導の原則であり、その源流は1960年代のMIT(マサチューセッツ工科大学)で生まれた「ハッカー文化」にあると言われています。
会場では講演だけでなく、「Village」と呼ばれる仕組みも特徴的です。これは共通の興味を持つグループやプロジェクト、ハッカースペースなどの単位でエリア内に拠点を設営し、ワークショップを開催したり、独自の催し物で参加者同士の交流を深めたりするものです。
参加者の多くが「Angel」と呼ばれるボランティアスタッフとして活動し、このキャンプを自らの手で創り上げています。
Datenklo、簡易トイレを利用したネットワークボックスで、会場内のインフラを支えている
Datenklo、WiFiのAPが設置
会場での出来事
私自身は前の予定の都合で、2日目の夜遅くに現地入りしました。
イメージ的にすごく盛り上がっている飲み会に遅れて参加してな感じで(笑)、広い会場を回りきれていない、見きれていないところもあるのをご了承ください。
カンファレンス
会場内では様々なイベントが同時多発的に開催されていますが、メインとなるカンファレンスは4つのテントで行われていました。
現地のカンファレンスは基本的に開催と同時に配信され、アーカイブも残されます。CCCのサイトかYouTubeでいつでも確認することができます。
What Hackers Yearn 2025 - media.ccc.de
https://media.ccc.de/c/WHY2025
YouTube
https://www.youtube.com/@WHY2025NL/videos
アーカイブで後から視聴できることもあり、現地ではタイミングが合ったものをいくつか聴講しました。その中の一つが、この界隈で著名なKirils Solovjovs氏とIcemans氏による「Decoding RFID」の講演です。RFIDの基礎から最新の攻撃手法までが網羅的にまとめられており、大変な盛況ぶりでした。
Decoding RFID: A comprehensive overview of security, attacks, and the latest innovations
https://www.youtube.com/watch?v=gdoy8Qv1XVc
また、今回のWHY2025のインフラをレビューするセッションも興味深いものでした。ネットワークや電源、電話網からPOSシステム、GPSに至るまで、イベントを支える技術の舞台裏が語られました。会場の地形や天候に起因する問題など、生々しい話も多くありました。将来的にはGPS情報で自分の位置がわかるようにしたいとのことで、この点は次回に期待したいです。
WHY 2025 - WHY2025 Infrastructure Review - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=J3Mi7p7937k
その他、現地では聴けませんでしたが、ロシアの選挙における不正の手法と、それを暴くための統計的・法科学的アプローチについての講演も、実際に選挙関係者だった方のお話ということで非常に興味深いものでした。
How to rig elections - media.ccc.de
https://media.ccc.de/v/why2025-218-how-to-rig-elections#t=145
一番大きなカンファレンスのテント
Decoding RFID の講演、結構大盛況
カンファレンス風景、180名を超えるスピーカーがいて99%の人がみな時間通りに来たそう
ワークショップ、Village
会場内の様々なテントで、多彩なワークショップが開催されていました。
私はPCとバッテリーの充電も兼ねて(笑)、「Hardware Hacking Village」に参加してみました。夜22時過ぎでも会場は大盛況でした。
その他にも、鍵開け(LockPicking)のVillageやCTFなど、至る所でマニアックな活動が行われています。かと思えば、ビールやパンケーキ、フリット(フライドポテト)が無料で振る舞われている場所もありました。
個人的に特に楽しかったのは「HOME COMPUTER MUSEUM」で、80年代のコンピュータがすべて動態保存されており、自由に触って遊べるようになっていました。
HardwareHackingVIllageの風景、飲んで爆音で踊っているテントもあれば真面目に話を聞くこのようなテントも
80年代のコンピュータ類が展示、皆触ってゲームなどができるようになっている
バッジ騒動
多くのカンファレンスでは電子工作を凝らしたバッジが配布されますが、このハッカーキャンプでも同様に、2011年頃から趣向を凝らしたバッジが作られてきました。
今年のWHY2025では、大型画面とキーボード、LoRaチップを搭載した野心的なバッジが計画されていました。
しかし、この種のプロジェクトにはトラブルがつきものです。イベント当日に基板とキーボードパネルを繋ぐ部品が届かないという事態が発生。急遽、部品のSTLデータ(3Dプリンタ用データ)が配布され、会場に3Dプリンタを持ち込んでいた参加者たちが協力して部品を印刷したそうです。
また、使用している18650バッテリーは取り扱いに注意が必要で、基板の端子がむき出しでショートしやすいという問題も発覚。そのため、組み立て直しや基板の露出部分をエポキシ樹脂で固める修正作業が、毎日ボランティア主導で行われていました。どうりで現地での配布数が限られていたのだと、後で納得しました。
なお、扱いが大変なバッテリーは、不要であればウクライナ支援のスペースで回収しているとのことでした。会場内にもウクライナ国旗がいくつか見られ、ヨーロッパではより身近な問題なのだと改めて思わされました。
Badge - WHY2025 wiki
https://wiki.why2025.org/Badge
参加者に配布されたバッジ、バッテリーの取り扱い注意が一緒に配布
参加者に配布されたバッジ、不要のバッテリーはウクライナ支援へと
会場内で見た面白いものとしては、「Motorized sofa」と呼ばれる自走式ソファーや、Ciscoのサーバーを改造したビアサーバーなどがありました。「なぜこんなものを作ったんだ」と(褒め言葉)思わずにはいられないような、創造性と遊び心に満ちた作品で溢れています。
Motorized sofa 、コントローラーで操作して自走する
Ciscoのサーバーを改造したビアサーバー、本気でこういうのを作って持ち込むのがすごい
会場を散策していると、突然流暢な関西弁で話しかけられました。イギリス在住で、日本への留学・勤務経験があるLiamさんという方でした。オランダの共通の知人から「日本人が参加しているから探してみて」とだけ伝えられ、私を探し当ててくれたそうです。
Angelとして働く彼の案内で、最終日の夜は様々なテントを巡り、世界中の珍しいお酒をいただいたり、多くの人々と語り合ったりしました。「わざわざ日本から来たのか?」と驚かれることも多々ありました。確かに日本人(アジア系)はほとんど見かけませんでしたが、今回は日本人女性1人だけ最後にお会いしました。
次回
私がこの種のキャンプに参加するのは実は3回目で、最初は10年前にドイツで開催されたCCCamp (Chaos Communication Camp)でした。
野外に巨大なアンテナを立ててネット回線を確保し(この辺は過去の話ですが)、自分たちの手でイベントを創り上げるというスタイルに、そのカオスと自由さにすっかり魅了されてしまいました。ここ数年はタイミングが合わなかったり、コロナ禍であったりで、ようやく久しぶりの参加となりました。
次回は4年後の2029年に開催されます。ドイツのCCCampも4年おきの開催で、夏冬のオリンピックのようにオランダのキャンプとは2年ずらして開催されているため、そちらは2027年の開催予定です。
さらに今回知ったのですが、イギリスの「Electromagnetic Field」というキャンプがそれらと重ならないように2年に1度開催されているそうで、次回は2026年7月16日〜19日とのこと。つまり、ヨーロッパのハッカーコミュニティは、ほぼ毎年何らかの形でこうした大規模キャンプを開催しているというわけです。
Electromagnetic Field
https://www.emfcamp.org/
限られた誌面と私の文章力で、このキャンプの魅力が十分に伝わったか不安ですが、日本ではなかなか味わえない独特の雰囲気があります。この記事を読んで興味を持った方は、ぜひ次回の参加を検討してみてください。次回は私はAngelをしてみようかなと思っています。
日本でも、同じとはいかなくても、いつかこんなキャンプをやってみたいですね!
その他会場の写真
テントの中では爆音で音楽が流れている
アリゲーターコンの人たちが会場の水のある場所にアリゲーター浮き輪を大量に放出
FoodHackingVillage 、いつもいろいろな料理を作ったりしています